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5話 仙台でのこと2

      2014/09/01

 - CASE01【桜色仙台城】, 探偵読物 , , ,

仙台駅で新幹線を降り、ローカル線に乗り換え、とある駅についた。タクシーが2台。あとは「軽食・喫茶らぽーと」なる喫茶店があるだけである。看板が一部欠けているが、とりあえず他に店がないので、私と持田さんはそのらぽーとへ入った。
「いらっしゃいませー」とおばさんの店員が迎え入れてくれた。
私たちの他に客はいない。コーヒーをふたつ頼んだ。
「ここまで来れれば、今日のミッションはクリアだな」と持田さんはわりあい早く出てきたコーヒーをすすりながら言った。
「うまく行くんですかね?」
「まあ、岬京子はベテランだし、そのへんはうまいからだいじょうぶだろ」
それから、私と持田さんは30分ほどくだらない話をして、手配しておいた車を借りに行った。
「おまえ、運転は?」
「ペーパーです、すいません」
「じゃあ、これ、キーね」
「え?」
「いや、だから、キー」
「ですから、ペーパーですって」
「ということは免許を持っている、ということだろう」
たしかに、それは正しい。
「いや、まあ、そのやれというなら、やりますが、いいんですね?」
「ああ」と持田さんは言った。「車も少ないし、だいじょうぶだろ」
これはむしろ、私のほうが私の運転に怯えている。
クラッチはどれだっけ、いや、これはオートマか、なんだ、むしろ、キーは右か、左にひねる、いや、これはハザード? というかむしろワイパー動いたけどそれは私の狙いではない、というか、アクセルこんなに重かったか、どうなんだ、ウインカーって、これタイミングはあっているのか、むしろ、ここでクッ! っと、クッ! とハンドルを入れてうわああああああああああああああああああ、ともはや持田さんのことばを1デシベルすら聞かず、持田さんのことを1ピクセルすら見ずに、なんとかかんとか運転という名の実験かつギャンブルをしながら、ものすごく長い時間をかけて、ようやく、目的地付近です、という天使の福音にも似たカーナビの音を聞いた。
「おお、ついたじゃん」とさらりと持田さんが言った。「まあ、運転多いから、慣れておくといい」
顔色ひとつ変えていない。むしろ、私のほうが顔色が悪い。
ちょうど、電話が入る。持田さんがすぐに出ると、あと10分そこそこでそっちにターゲットが着きますんで、そのすぐあとに我々も入ります、と声が漏れてきた。なかなかデカイ声である。
「いまの、男性工作員さんですか?」
「そうだ。そろそろ<桜色仙台城>が来るから、あの喫煙所で眺めるか」と持田さんは言って、私と持田さんはタバコを吸った。
私はタバコを吸いながら、これから起こることをファイルから想起した。
なるほど、そんなことが起こるのか、起こりうるのか、という極めて半信半疑な状態であったのは事実だが、見事に現実がそれに追いついてくる。その時間はじつに不思議であった。
予定どおりに<桜色仙台城>氏が車を止めた、その瞬間だった。
わりとすごいスピードで、その<桜色仙台城>氏の車の前に、1台の車が止まる。車に詳しくはないが、それなりに高そうな、白い車である。
「コラ、テメエ、降りろ!」と怒号が閑散とした駐車場に響き渡る。
「ちょっと、離してってば」と女性が車から降ろされる。
「うるせえ、バカ野朗!」と男は女性を降ろすとまた車に乗り込んで、さっさとドアを閉め、走り去る。
彼女は大きなバッグを抱えて、所在無さげにしている。
駅までは5kmといったところで、タクシーどころか車の通りがまばらな有様である。
さて、これを目の前で見せられた<桜色仙台城>氏が、とりあえず車から降り、店内に行こうとおそるおそるその歩みを進めた瞬間である。
「あのぉ」と困り果てた様子で彼女が<桜色仙台城>氏に語りかける。
むろん、この女性は工作員としてファイルに乗っていた、岬京子そのひとだった。
遠いため、話はよく聞こえないが、<桜色仙台城>氏の「頼まれたらノーとは言えない性格」を狙ったプランである。
「目を合わせるなよ、こっちに飛び火したら大失敗だからな」と持田さんが涼しい顔でタバコを吸いながら言った。
岬京子と<桜色仙台城>氏の話していた時間は3、4分である。そのあいだ助けを求めるように<桜色仙台城>氏はこちらを何度か見たが、私と持田さんはまるで関心がないかのように、その視線を無視する。
仕方ない、というように、いや、そこまで強い意志も<桜色仙台城>氏にあったかすら怪しいが、彼は岬京子を自分の車に乗せた。
「な、うまくいっただろ」
「どんな話したんですかね」
「まあ、そのへんは岬京子はプロだから、うまくやる。そういう細部がうまくできるか否かが、いい工作員とそうでない工作員のちがいだよ」
私にはとても工作員はできそうにないとそのときは思ったが、このあとそう遠くなく私も工作をすることになった。とはいえ、それはまた別の話である。

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