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5話 ご無用

      2014/09/01

 - CASE10【ノーマライズワンダーランド】, 探偵読物 , , , , ,

諏訪さんの新しい彼氏はお世辞にもいい男ではなかった。

いつ洗濯したかも定かではない背広に、袖口の若干ほつれたコートを着て、不動産営業マンとしてそこかしこを駆け回っていた。

成約をどんどん取ってくるというタイプにも見えなかったが、勤続年数はそれなりだったので、ある程度は営業としてのスキルがあるのだろう。

温和な表情と朴訥としたしゃべり方から、好感は持てたがそれだけだった。いいひとだが、いいひと以上ではない。そんなタイプだった。

戦わなければいいと稲作を始めることすらせずに、のんびりと母なる海で釣りをはじめてしまいそうな男だった。

「2択があるとしましょう。おとなしい方と、激しい方です。どっちを選びますか?」と私が持田さんに訊いたら、「激しい方。その方がおもしろい」というまことに中年男性らしい答えが帰ってきた。

つまり、諏訪さんのいまの彼氏が女性であったとしても、持田さんが選ぶことはないわけである。

ちなみに、不用意に持田さんを中年男性扱いしただけで、この会話自体にあまり意味はない。

おとなしい諏訪さんの彼氏の存在を門田さんに告げたとき、門田さんははっきりと落胆した。

「やっぱりそうですよね」と彼は言った。

「ただ、あまりうまくいっている気配もなかったですけどね。諏訪さんはひとり暮らしだったのにホテルでしたし、2週間で会ったのはおそらくその1回だけですし」

「相手の方は妻子あったりするんですか?」

「いいカンですね」と私は言った。「いや、すいません、嘘です。独身です。こっちは諏訪さんよりもさらにカンタンに調査できました」

「ちょっと、大橋さん。やめてくださいよ」と門田さんは笑った。「でも、なんでホテルだったんですかね?」

「門田さんとのときには、そういうことは?」

「どうでしょうか。学生時代にはたまにあったような気もしますけど……」

まあ、ホテルくらい入るだろう、と言ってみてもいいが、ひとり暮らしの付き合っている男女が、ホテルにいっしょに入ることはそれほど多くはない。
多くはないというよりかは、使う派と使わない派にきれいに分かれるといった方がいいかもしれない。

彼女とそのいまの彼が入ったホテルはそれほどキレイでもなく、お互いの自宅からさして離れてもいない。かつ2時間程度で出てきたふたりは、食事をしてあっさりと別々の部屋に帰った。

門田さんのいうように不倫すら疑うぎこちなさだった。

いまの彼氏は別れ際に少々苦い表情をしていたような気さえする。



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